「実家の名義変更」や「相続放棄」のような用語は、法律上の用語と日常会話で使う用語で違いがあると聞くのですが、本当でしょうか?
たしかに、一般的な日常会話での言葉と法律上の用語で違いが出てくる単語も多いですね。
ここで整理をしてみましょう。
「名義変更」「相続放棄「遺言書」のような言葉は、日常会話で使われる用語と法律上の用語で意味が異なっていることがあります。
たしかに、日常会話レベルでは間違っているというわけではないで困らないかもしれません。
しかし、専門家としていざ法律上の手続きをしようとしたときに、相談者との間で認識をしている言葉の意味が違っていると全く違う結果になってしまう可能性がありますので、正確な法律上の意味を確認することを心がけています。
ここでは、筆者がこれまでの経験上で感じた、意味が違っている用語について整理を致します。
Contents
異なった意味で使われることがある用語
「名義変更」
問合せの内容「自宅の名義変更の手続きをお願いしたいんですけど」
【相談者の意図】
1.自宅の所有者が亡くなったので、相続人へ「相続を原因とする所有権移転登記をしたい」
「名義変更」という言葉は、「所有者が変わったので、不動産登記簿に記載されている所有者の名義を変更する」という意味で使用されることが多いですね。
所有者が亡くなっている場合には、1の意味で「名義変更」という用語を使います。
相続が発生していますので「相続を原因とする所有権移転登記」をすることで、登記上の所有権者を相続人に変更することができます。
いわゆる「相続登記」です。相続登記のご相談についてはこちらをご覧ください。
2.自宅の所有者がご健在であって、生前に子どもへ名義を変更したい
所有者がご健在の時にはまだ「相続」は発生していませんので、2の意味で「名義変更」という用語が使われます。
実際の登記としては
- 無料で自宅の所有権を譲る場合には「贈与を原因とする所有権移転登記」
- 代金をもらって自宅の所有権を譲る場合には「売買を原因とする所有権移転登記」
をするのが代表的ですね。
「生前贈与」と言われるものがこちらの意味です。生前贈与についてはこちらをご覧ください。
※最近は、生前整理という考え方が広がってきましたので、「生前に自宅を子どもに譲りたい」というご依頼をいただくことも増えています。
死後に備えての準備ということを念頭にされているためか、お電話でのお問い合わせの際、「私が生きているうちに自宅を子どもに譲りたい」という主旨で「相続で財産を譲りたい」と言われることもありました。
「相続」は実際にお亡くなりになった後に発生するため、生前に処分をされる時には「贈与」や「売買」によって所有権を移すことになります。
3.自宅の所有者が引っ越しをしたので、住所の変更登記をしたい
「引越しをして住所が変わったので登記簿上の所有権登記名義人の住所も変更をしたい」、「結婚をして名字が変わったので登記簿上の所有権登記名義人の氏名の変更をしたい」という意味で使われるのが3です。
登記上の考え方としては、住所変更や氏名変更の登記をしても「誰がその不動産を所有しているのか」自体に変わりはありませんので、いわゆる名義変更ではないのですが、3の意味でご相談をいただくことも多いですね。
法律上・登記上、
- 住所変更の登記は「所有権登記名義人住所変更登記」
- 氏名の変更登記は「所有権登記名義人氏名変更登記」
といいます。
「相続放棄」
問合せの内容「妹は相続放棄をしています」
【相談者の意図】
1.家庭裁判所へ相続放棄の申述をしたことによる相続放棄
法律上の相続放棄は「相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がない」という旨を家庭裁判所へ申述し、裁判所がその審査をする手続きをいいます。
裁判所での手続きが必要であり、申述をすることができる期間も限られているためそれほど見かけることは多くない印象です。
ただし、被相続人に多額の借金がある場合など、この制度がとても有用なケースもあります。
当事務所でもご相談を承っていますので、お気軽にご相談ください。
2.遺産分割協議の結果、財産や負債について相続をしないという話し合いをしたという意味での相続放棄
経験上、ご相談をいただく中で出てくる「弟は相続放棄をしています」という用語は、こちらの意味でつかわれることが多いです。相続人間で話し合いをした結果、ある相続人は被相続人の財産を引き継がないことに決めたということですね。
1の意味と2の意味では法律上の効力も全く違いますし、相続手続きに必要な書類も変わってきますので、打ち合わせの中では「弟さんの相続放棄は家庭裁判所で手続きを行ったものですか?それとも、相続人の中で話し合ったものですか?」という点を必ずお伺いするようにしています。
「遺言書」
問合せの内容「亡くなった父が生前に作った遺言書があります」
【相談者の意図】
1.法律上の効力がある遺言書がある
法律上の効力がある遺言書としては、① 公正証書遺言、② 自筆証書遺言、③ 秘密証書遺言の3種類があります。実務上特に多く使われているのが① 公正証書遺言と② 自筆証書遺言です。
これらの遺言書は、遺言者が亡くなった後に、遺言者の意思を確実に実現させるため、法律によって作成方法について厳格な方式が決められています。その方式に従っていない場合には遺言書自体が無効になってしまうこともあるため、慎重に作成をする必要があります。
公正証書遺言作成についてのご相談はこちらをご覧ください。
2.いわゆる遺書やエンディングノートのような、法律上の効力がない書面がある
家族への想い・感謝をまとめた手紙や、自分の死後に連絡してほしい人を記載しているメモ等が遺っていたとしても、法律上の遺言書の形式を備えていなければ法律上の効力が生じません。
こういった書類は一般的に遺書やエンディングノートと言われますが、遺言書と仰る方もいらっしゃいます。
もちろん、エンディングノートもとても大事なものですが、法律上の手続きをするためには使用できませんので、打ち合わせの際には「どのような形式で作成をしているのか」についてお伺いするようにしています。