
亡くなった父親の住所は登記簿の住所と違うんだけど、相続登記をするためには登記簿の父の住所を変更しなければならないでしょうか?

亡くなったときの住所と登記簿上の住所が異なっている場合でも、登記簿上の住所を変更する必要はありません。
ただし、その場合は通常の手続きに比べて追加の書類が必要になってくることがありますね。
ご質問のような場合、相続登記を申請するには戸籍や遺産分割協議書等に加えて
①被相続人の住民票の除票
➁戸籍の附票の除票
③被相続人名義の登記済証(権利証)
のどれかを法務局へ提出する必要があります。
この①~③を被相続人の同一性を証明する書類といいます。税務署への税務申告や被相続人の銀行口座の解約などでは要求されないことが多いので、相続登記特有の書面といえますね。
相続登記の場合、こういった書類で被相続人の同一性を確認しますので被相続人の登記簿上の住所変更をする必要はありません。
①被相続人の住民票の除票や➁戸籍の附票の除票に記載されている被相続人の住所が
登記簿上の所有者の住所と同じであれば問題ないのですが、引っ越しなどにより住所が違っている場合もあります。
そのときは、「被相続人が登記簿上の所有者の住所地に過去住んでいたことがわかる書類」として①被相続人の住民票の除票や➁戸籍の附票の除票を過去にさかのぼって調査する必要があります。
以前被相続人が住んでいたことがわかる書類の取得ができればそのまま相続登記の準備を進めていくことが可能です。
被相続人の同一性を証明する書類が必要な理由
登記簿には不動産所有者の住所や氏名が記載されています。以下の登記簿の例ですと、「千葉県柏市柏十丁目10番10号 山田太郎」です。
【登記簿の例】
権利部(甲区) (所有権に関する事項) | ||
登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
所有権移転 |
昭和54年11月11日 第12345号 |
原因 昭和54年10月10日相続 所有者 千葉県柏市柏十丁目10番10号 山田太郎 |
この山田太郎が死亡して相続が開始したことを証明するものとして、法務局へは山田太郎が死亡したことがわかる「戸籍」を提出します。
ここでポイントとなるのは、「戸籍」に記載されているものは「住所」ではなく「本籍」であるという点です。以下の戸籍の例ですと、「本籍」は「千葉県柏市豊四季台567番地234」です。
【戸籍の例】
本籍 氏名 |
千葉県柏市豊四季台567番地234 山田太郎 |
戸籍に記録されている者 【除籍】 死亡 |
【名】太郎 【死亡日】令和2年2月2日 |
このような戸籍を法務局へ提出した場合、法務局は『「本籍」が「千葉県柏市豊四季台567番地234」の山田太郎さんが亡くなったのだな』ということを認識します。
ここで問題となるのは、登記簿に載っているのは『「住所」が「千葉県柏市柏十丁目10番10号」の山田太郎さん』という点です。戸籍上の被相続人と登記簿上の所有者が同姓同名の別人ではないか、言い換えると「本籍」が「千葉県柏市豊四季台567番地234」の山田太郎さんと「住所」が「千葉県柏市柏十丁目10番10号」の山田太郎さんは同一人物であると認められるかどうかということになります。
そこで、①被相続人の住民票の除票 ➁戸籍の附票の除票の出番です。
この2つの書類には被相続人の「本籍」と「住所」が載っています。
【戸籍の附票の除票の例】
本籍 氏名 |
千葉県柏市豊四季台567番地234 山田太郎 |
附票に記録されている者 【除籍】 |
【名】太郎 【住所】千葉県柏市柏十丁目10番10号 |
この戸籍の附票の除票があれば、「本籍」が「千葉県柏市豊四季台567番地234」の山田太郎さんと「住所」が「千葉県柏市柏十丁目10番10号」の山田太郎さんは同姓同名の別人ではなく同一人物であると認めることができますので、法務局も同一人として手続きを進めてくれます。
※なお、戸籍に記載されている本籍と登記簿上の所有者の住所が同じであれば、実務上同一人物と認められていますので、その場合でも相続登記は進めてもらうことが可能です。
しかし、①被相続人の住民票の除票 ➁戸籍の附票の除票については役所に保存期間があります。従来の保存期間は法律上5年間とされていたため、死亡後5年以上たってしまうと住民票の除票などは廃棄されてしまうことがありました。実際に、相続登記を長期間放置していると戸籍の附票の除票は廃棄されてしまい、もう存在しないというケースも多くございます。
例 大阪市のHP(住民票の除票の保存期間)
都城市のHP(戸籍の附票の保存期間)
①被相続人の住民票の除票 ➁戸籍の附票の除票が存在しないと登記簿上の登記名義人との同一性を認める書類を取得できなくなってしまうのですが、このような場合に相続登記を絶対することができないとなると、多くの方の相続登記が不可能になってしまう不都合が出てきてしまいます。
そこで、実務上は①被相続人の住民票の除票 ➁戸籍の附票の除票を提出しなくとも③所有権に関する被相続人名義の登記済証(権利証)があれば、被相続人の同一性を認めることができるとされています(平成29年3月23日法務省民二第174号)
なお、管轄法務局によっては実務上の取扱が異なることがあります。特に、①②を取得できる場合であっても③の書類で相続登記を進めてもらえるかどうかは各法務局により判断が異なることもありますので、具体的な手続きをする際には法務局との打ち合わせをされることをお勧め致します。
また、①②③の全ての書類を提出することができない場合もありますが、そのような場合にも法務局とどのように手続きを進めていけばよいかを打ち合わせが必要です。